クラブ設立以来、成長を続け注目を集めているサッカークラブがあるのを知っていますか。そのクラブは「クリアソン新宿」。
そのクリアソン新宿が、2025年春にatama plusと組んで塾を開校しました。「サッカークラブがなぜ塾をはじめるのか?」という疑問を明らかにするべく、今回はクリアソン新宿のアカデミー ダイレクターの神田さんとアカデミー ヘッドオブエデュケーションの吉村さんのお二人にこれまでの経緯と目指す先についてお話を伺ってきました。
クリアソン新宿とは
クリアソン新宿は、なぜ塾を始めた!?
サッカークラブがなぜ塾に興味を持ったのでしょうか?

神田
クリアソン新宿のアカデミーは「自律的に決断して他者に貢献して、自分と社会を豊かにしていく」ということを最上位の目的に掲げています。サッカーでも勉強でも一生懸命やりたいという強い意志を持つことが大事だと選手に伝えています。一方で、一生懸命やりたいけどサッカーと塾の時間が被ってしまう、サッカーと塾、自宅の場所が離れていて移動に時間がかかってしまうことが課題だとわかりました。部活であれば、学校の授業と同じ場所でできますが、今は部活も縮小する時代。クラブチームのアカデミーが、サッカーと勉強の両立を効率的にできる環境を作っていかないといけないと思いました。
atama+塾を選んだ経緯を教えてください。

神田
クリアソンのメンバーから、atama+塾が始まったことを聞きました。atama+塾のフランチャイズ事業が進んでいく中でクリアソンも手を挙げ、吉村先生をはじめアカデミーのスタッフが「めっちゃ良いですね!」と言ってくれました。経営会議では売上うんぬんの議論は出ましたが、大義があるんだからやろうとなりました(笑)。もちろん教育は1年だけやって成果が上がるものではないので事業としてサスティナブルに長く続けることが大事です。そこはatama plusのノウハウをお借りできるので大変心強いです。事業の親和性はもちろん、atama plusの理念にも深く共感しました。
13年前、日本サッカー協会が主催のサッカークラブ経営者輩出を目的としたスポーツマネージャーズカレッジという講座を受けていたんですが、その卒業課題で僕はサッカークラブの塾経営の事業計画を書いたんですよ。13年越しの願いが叶いました。

プロに行くか、東大に行くか、迷える環境を築きたい
サッカーと勉強の両立を大切にする理由は?

神田
前提として、サッカーと勉強、両立したいかどうかは個人の人生観です。そこに興味がなければどちらかばかりをやればいいと思うんですが、その環境はすでに世の中にたくさんあって、我々がやる必要性を感じませんでした。だからクリアソンは両立を目指している人のための環境を作ることを使命にしようと。もう一つは、生きる上ではもちろんサッカーのレベルを上げていく上で、基礎学力はかなり重要だと考えています。テクノロジーの力で進化した分析のデータをどう扱うか、チームのコンセプトを理解して自分の個性とどうやってマージ(統合)するか、そのために他者とどうコミュニケーションするかというようなことです。持って生まれた身体的な才能だけで高いレベルを目指すことは難しいと考えています。

吉村
長年、現場で子どもたちの指導をしてきましたが、やっぱり多くの子どもが「両立をできない」と決めてしまっていると感じます。ある時期になると、他の友達が勉強に集中するためにサッカーを辞めて、それで「自分も」と。いやいやちょっと待てと。勉強に集中したら本当に成績が上がるの?狭い見識の中で決めてしまうのはとっても残念です。サッカーというスポーツはとても難しくて、でも解決できると面白くて、それがサッカーを上達する重要なプロセスです。勉強や自分の生きる力を伸ばしていく上で、こんなに良い経験ができるスポーツはないのに、みんな完全に分けてしまう。

子どもたちが両立を難しいと感じてしまう原因とは?

神田
冒頭にお話しした通り、一つは場所が離れているから。もう一つは、サッカーと勉強の能力がつながっていることが理解されていないからだと思います。Jリーグで仕事をしていたとき、チームの人事を司る強化部長50人を対象に、選手として10年以上活躍する上で心・技・体のどれが大事かを調べたんです。トップカテゴリーに入ると技や体は差が出なくて、それよりも心と頭の部分、非認知能力、内面の力が重要だという結果になりました。他者の言葉を理解して、内省して、発奮するようなことです。そして、それができるためには一定レベルの基礎学力が必要だと考えています。

吉村
あとは「サッカーに集中しよう」「サッカーは今しかできへんで!」と洗脳した方が指導者は楽なんでしょう。指導者が高圧的にそういう表現をすると、選手は「勉強して睡眠時間が短くなるのは良くない」とか思ってしまう。そんなにパフォーマンスは変われへんのに。自分の可能性を広げていくのが育成年代なのに、その逆になってしまう。
両立可能と考える背景は?

神田
ドイツ代表のアンダー世代は代表合宿でも勉強させているのを映像で見ました。

吉村
ずいぶん昔、ヨーロッパに留学をしていたんですが、ビッグクラブには必ず心理カウンセラーと勉強を教えてくれる塾の先生がいるんですよ。練習の前後に、勉強でつまずいたところを一生懸命に聞いてくれるんです。約30年前ですが、すでにそういう体制になっていた。クリアソンが塾事業を始めるのも遅いぐらいですよ「神田さん、早くやれ」って思っていました(笑)。勉強頑張れへんやつが、なんでサッカー頑張れんねんという感覚が僕にはずっとあります。勉強できないやつがサッカーうまくなるわけない。やっぱりサッカーはそういう競技なんです。
日本サッカーの父、ドイツのデットマール・クラマー*1は「サッカーは少年を大人にし、大人をジェントルマンにする」と言いました。オランダのヨハン・クライフ*2も「We believe in dedication in education」つまり教育に関わることを惜しまなくやらないと、サッカーとスポーツは発展していかないと言っている。日本は誰が決めたのか、どうしてもスポーツはスポーツ、勉強は勉強みたいに勝手に分けてしまう。クリアソンでサッカーをしながらプロに行こうか東大に行こうか迷えるような環境が作れれば、こんなに素晴らしいことはないですね。

自分で考え、自分で決める。自分の人生を生きるための教育
クリアソン新宿が目指す教育のカタチを教えて下さい。

神田
社会がどうなっていくか読めない時代なので、どういう教育が良いか、ちょっと予測不能な部分もあります。だからこそ自分で自分の人生を決めることが大切だと考えています。熱量を持って自分の人生を決めるためには、広く様々なものに触れることができる環境が必要だと思います。水戸ホーリーホックの取締役をやっていたときに、吉田松陰らが学んだとされる「水戸学*3」を調べていたんですが、そこで文武不岐という思想を知りました。それは文も武も一体で、一方が向上すれば一方も相関するような関係にあるという考え方です。現代風にいうとSTEAM教育*4に近いと思うんですが、様々な知識や経験がつなげていくこと、そのために各分野の専門家やステークホルダーが連携していることが大切です。学校と家庭とフットボール、そして塾が分断されているのではなく、コンセプトを共有してやっていく。我々は新宿というエリアに根差した活動をしていて、サッカークラブとしてすでにたくさんのリレーションがあるので、そういった資産を活用しつつ、みなさんの力を借りつつ、子どもたちのための環境を創っていきたいです。


吉村
僕の住んでるエリアでは、 1クラス 10人とか15人になっている小学校もあって、さらにその中に外国籍の子どもが4〜5人いるのが当たり前になっているんです。様々な子どもがいる中で、先生も授業で難しさを感じており、子どもも学び切ることができていないケースもあるそうです。例えばatama+塾のように、子どもたちが勉強に興味を持てる、そうやって自分で学んでいく力をつけられることが、今後の日本の教育では大事かもしれません。スポーツと勉強の両立についても、総論は賛成でも各論で見ると反対の人はいっぱいると思います。でも半年後、1年後に子どもたちが「こんなにいきいきしている」「こんなトライし始めたとか」ということを、我々が動きながら発信し続けることですね。そうして皆さんの力を借りながら、自分で生きている感覚を持った子が増えて、新宿に貢献できればいいですね。
興味深いお話を伺うことができて、とても感銘を受けました。クリアソンは、短期ではなく中長期の育成を目的に置いていて素晴らしいですね。最後に神田さんから「教育というテーマでは、語り尽くせないことがまだまだたくさんあるので、こういうディスカッションも含めて今後もご一緒させてください」と声をかけていただき、atama plusスタッフも身が引き締まる思いでした。
スポーツと勉強の両立を目指している中高生は、ぜひお気軽にご相談ください。
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脚注
*1:デットマール・クラマー
デッドマール・クラマー(1925-2015)西ドイツ出身のサッカー選手、サッカー指導者。1960年、東京オリンピックに向けた強化・指導にあたるため日本代表コーチとして来日。以後、日本の強化、指導者養成、ユース育成等の礎を築き「日本サッカーの父」と称される。
*2:ヨハン・クライフ
ヨハン・クライフ(1947-2016)オランダ出身のサッカー選手、サッカー指導者。オランダ代表として、近代サッカーに大きな影響を与えたトータルフットボールを体現。指導者としては古巣のアヤックス、バルセロナなどで監督を務め、史上最高の監督の1人と言われている。
*3:水戸学
江戸時代、水戸藩主徳川光圀「大日本史」編纂に端を発し、同藩で興隆した学派。儒学思想を中心に、国学・史学・神道を結合させたもの。開国後、吉田松陰らを通して明治政府の指導者たちに受け継がれ、天皇制国家のもとでの教育政策、国家秩序を支える理念としての大きな影響を及ぼした。
*4:STEAM教育
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の5つの分野を統合的に学ぶ教育。技術革新が進み人工知能の影響で世の中が大きく変化する中で生まれた。